『アノスミア - わたしが嗅覚を失ってからとり戻すまでの物語 -』
ものすごく衝撃的な本に出会った気がします。
『アノスミア 私が嗅覚を失ってからとり戻すまでの物語』
アマゾンで注文し、家に届いたとき、「げ!こんなに分厚い本読めるかしら」というのが最初の感想(笑)。ページ数書いてあるのにあまり気にしなかった。
でも、まず目次を開いてとてもわくわくしたのを覚えています。
そそられる章のタイトルたち(私だけかな?)。
そしてページを読み進め、すぐに惹き込まれていきました。
実話を基にした物語としても面白いし、香りを学ぶ・香りに携わるものとして、感覚的なものから科学的なお話まで、時に難しいけど専門的で勉強になる。恋愛話、料理の話、香水の都グラースの話・・・ちょっとしたエピソード、情報がたくさん詰まっていて、嗅覚に興味がある方、アロマセラピーや香りを学ぶ方にぜひお勧めしたい!
そして、このコロナ禍にタイムリーな嗅覚障害の話。
少しネタバレになりますが、あらすじを少し
(※少しのネタバレも嫌!という方は注意です)。
シェフを目指している主人公のモリーはある日交通事故に遭い、命は助かるものの後に嗅覚を完全に失っていることに気付きます。嗅覚脱出(アノスミア)と診断され、シェフの道は絶望的、医者にも治ることはない、と断言されてしまいます。
でもある時、ローズマリーの香りがふとわかることに気が付いて・・・(ここ、アロマセラピストは多分興奮するところです笑)!
事故に遭う前の、こちらまで香りや色が伝わるような鮮やかな描写が一転、彼女の心を表すかのように、読んでいる方もモノクロの世界へ連れ去られた気持ちになります。
なので最初はワクワクして読み進めていたページから、途中暗くてダークになる。(多分、ここで一旦読むのが止まったり、眠くなってしまう方もいたりするのかも、と思いました。)
そこからの、彼女の行動力がとにかくすごい。ネタバレといえばネタバレですが、タイトルに「わたしが嗅覚を失ってからとり戻すまでの物語」とはっきり書いてあるので、取り戻すまでに行動した彼女の移動距離、専門家に会いに行く回数、自己分析、日々の努力・・・元々とても賢い家系の生まれのようですし、彼女自身も頭の良い方なんだなぁと思いますが、それにしてもすごいです。彼女のことを若くてラッキーだった、という方もいるし、恐らくそれも大いにあるけれど、その行動力が何より、と何度も思わせられました。
個人的に強く心に響いたので、自分の覚え書きのためにも絶対に何かに書いて残さなければ!と思ったのですが公開するにはそれに見合った私の文章能力、表現力が乏しすぎて、本当に恥ずかしい限りで悩みました。いつも適当に備忘録も兼ねて書いているブログとは何か違う気がしたからです。
でもとにかく香りを学んでいる方や、もし嗅覚障害を患ってしまった、という方がいて、どうすれば良いかわからない、という人に届けば、、、と思ってここに書いてみようと思いました。
内容は、基本は物語なので小説のように読み進めていけるのですが、上にも書いたように、時々すごく専門的になるので、多分右から左になる方は多いと思います。
私も正直、自分が仕事として関わる分野で、かつ個人的に興味のある内容だったので、「そうそう!知ってる知ってるー!」とすんなり理解できるものもあれば、「う〜ん、ちょっと難しすぎるな。専門的すぎたり、逆に抽象的、哲学的すぎるな」と一度読んだだけでは噛み砕けない部分も多々ありました。
割と身近な存在だったのに、全然知らなかったエピソードが一つ。
ベン&ジェリーズというアイスクリーム屋さん(ブランド)がありますが、なんとその創業者の一人のベンさんは、昔からさっぱり、匂いを感じずに育ってきたそうです。
だから、ベン&ジェリーズのアイスクリームは塊のような「食感」を大事にしたアイスクリーム、という特徴なんだとか。確かに、初めて食べた時チョコやナッツがゴロゴロの塊すぎて衝撃的でした!もちろん美味しい。
ベン&ジェリーズはこちら(写真は公式HPより)。
あぁおいしそう、久しぶりに食べたいな。
他にも、学校などで女性同士、「生理がうつる」と噂したことありません?あれ、もしかしたら嗅覚が関係しているのかも、という論文があるらしく。生理の血の匂いを感じる、とかではなく、体臭(他人の脇の下から採集された無臭の化合物を鼻の下に塗る、という実験!ヒェー)。これによって被験者たちは月経周期が左右された、というデータがあるらしく・・・。
高校・大学時代、運動系の部活をしていて、よく「うつるよね〜不思議〜」とか言ってたあの頃。なんとなくじゃなかったのかも、と興味深いです。
ただ本にも書いてあるのですが、ホルモン、フェロモンなどこの種のテーマはどうしても胡散臭い目で見られやすかったらしく、割と最近まで研究自体も少なかったよう。
それから、主人公がフランスのグラースの学校に2週間集中講座を受けに行った、という話も載っています。 昔プロヴァンスに一人旅に行った時、時間が足りなくて行けなかった街。
船でモナコやカンヌも行きましたが、未だ行けていないのがグラース。夏の南仏が本当に眩しいくらいに美しくて、いつか絶対また行きたい、そして次に行くならグラースも訪れたい、と思っているので、このエピソードもとても魅力的でした。
とまぁ、まだまだ興味深い描写がたくさん出てくるので、図書館で借りる、とかでなくちょっと高かったけど思い切って購入してよかったなと思いました。 しかも紙の本にして正解でした。持ち運びはできないくらい重いけど、個人的には本棚に置いて時々手に取って読みたい本だな、と思います。
興味のある方は、ぜひ一度手に取ってみてください。
訳が、とても素晴らしいです!ニキ リンコさんという方の訳。洋書を日本語にすると読みにくい問題が、全然なかったです!この本が面白い、素敵だな、と思えたのはニキ リンコさんの翻訳の素晴らしさもあること、間違いなし。