ヒューマニエンス 〜 “嗅覚”生命のバロメーター 〜
NHK BSプレミアムで放送されている、ヒューマニエンスという番組。
少し前ですが、嗅覚についてのテーマの日がありました。
アロマセラピーに携わるものとして、嗅覚についての研究やこういった番組はとても気になるし、面白い!
全体を通して、もし嗅覚を失ったらどうなってしまうんだろう、ということを改めて考えさせられました。
嗅覚は生命のバロメーター?
冒頭で、「亡くなる5年前に患っていた症状から算出した死亡リスク」という表があり、がんや糖尿病、心不全よりも高い倍率(健常者の約3.5倍)で嗅覚脱出はリスクが高いというデータがある、ということが紹介されていました。
番組では日本語に訳してもっとわかりやすいグラフになっていたのですが、恐らくこちらの表が元かな、と。
引用元:Olfactory Dysfunction Predicts 5-Year Mortality in Older Adults
わかりにくい表現になってしまいましたが、嗅覚を失うということは、裏を返せば身体の他の器官にも異変を生じている可能性がある、まさに生命のバロメーターとも言える、とおっしゃっていました。
興味深いなぁと思ったのは、MCの織田裕二さんが、以前ドラマか何かで外科医の役をやったときに、オペのシーンで本物の肉を用意され、思わず「臭い」と言ってしまったというエピソード。
現場にいた先生が、「そうなんです、外科はいつも臭いです。悪い部位を切ると臭うので・・・」というようなことをおっしゃっていたそうで、とてもリアルな現場のお話。匂いには色んな情報が詰まっている、と言えるのかもしれません。
嗅覚は、人間の生命を、尊厳を、情動を突き動かす本能の感覚器官
人が匂いを嗅ぐと、鼻甲介(吸った空気を温めるヒーターのような役割)を通り、嗅上皮(鼻の天井部)で匂いをキャッチ、そこは無数の糸が絡み合ったような状態らしく、それを拡大してみると嗅神経細胞があります。この中に匂いの分子をとらえる嗅覚受容体というものがあり、におい分子はここで電気信号に変えられ、脳に送られます。
この辺は難しい言葉が並び、なかなか難しいですよね・・・。
脳の中に入ると、嗅球という末端の部分があり、嗅覚伝導路を通り、匂いは嗅球から嗅皮質(脳)へ伝わります。嗅皮質は嗅覚情報を処理する脳組織で、その脳組織のすぐ側にあるのが海馬(記憶を司る司令塔)と扁桃体(情動)。
情動は好きとか嫌い、快・不快というような気持ちのこと。
そう、嗅覚の話になるとよく記憶や情動の話になるかと思います。
「あ、なんだか懐かしい香りがする」
「この香りを嗅ぐとなぜか〇〇の出来事を思い出す」
「この人の匂い、なんでかわからないけど本能的に好き」
こんな経験、きっと誰しもあるのではないでしょうか、と。
それは海馬と扁桃体の話につながります。
過去に嗅いだ匂いの記憶も、この海馬を経由します。そしてその記憶と今嗅いだ匂いが結びつくことで、初めて私たちは匂いを判断しているんだとか。
香りを嗅ぐと、嗅覚は脳にダイレクトに伝わる、まだ解明されていないことも多いけど、色んな可能性を感じる!と専門家の方々はおっしゃいます。
また、「記憶」は残りやすい感覚だが、「記録」が難しいと出演されていた専門家の一人がおっしゃっていたのも印象的でした。
確かに、写真やビデオで視覚は残り、同じくビデオや音楽などで聴覚も記憶できる(ちょっと表現が難しいけれど、伝わると思います)。でも香りは・・・?嗅覚は、記録に残せないし、デジタル機器で誰かに送ることは今の技術ではできない(将来的には・・・どうでしょう?)。
記録媒体に残せないので、他人がどのように感じているか共有しにくい、という感覚。
しかも、人によって感じている匂いが同じである保証はどこにもない、あくまで自分の記憶と照らし合わせて「〇〇の(ような)匂い」と言っているだけ・・・番組をみて、なるほど、となりました。
人それぞれの経験・学習で匂いの表現が変わる、ということだそうです。
確かに、そんな経験あるかも。
他にも、地球上の生命はいつから匂いを感じるようになったのか?
ゾウの嗅覚受容体の数が他の生物と比べて異様に多いこと(ヒト:398個、犬:811個、ゾウ:1948個!)、
チンパンジーと人間の嗅覚受容体の比較(1個しか違わないのに75%しか同じものはない)、などどれもとても興味深くて面白いお話ばかりでした。
嗅覚のない世界
最後に、4年前に嗅覚障害を患った、という女性のお話がありました。
フードライターのお仕事をしていたというこの女性。血管の病気から、嗅神経を損傷。
まさに、お仕事にものすごく直結しているであろう、嗅覚を失うということがどれほど辛いことなのか、考えさせられました。
彼女は、「ガスの匂い、火を使っている時の焦げの匂い、食べ物などが腐っている、などもわからない。なのである意味命の危険を察知できないとも言える」というようなことをおっしゃっていました。
(話がそれますが、一般的に思い浮かぶガスの匂いは、天然のガスの匂いではなく私たちが危険を察知できるように香り付けされているんですって!この番組では特に言っていませんでしたが初めて聞いた時は衝撃でした。)
そして、鬱症状というか、「生きる楽しみ、喜びがゼロではないけれど匂いがないとカラーの世界がモノクロの世界に変わったぐらい味気ない」とも言っていました。嗅覚を失うことによって、心にまで影響を及ぼしてしまう。
彼女が今取り組んでいることは、記憶の力で嗅覚を取り戻すこと。
精油を使い、鼻の訓練をしている映像がありました。嗅覚刺激療法(Olfactory Training)といって、嗅神経を匂いで刺激し、再生することを目的で、伝達量がよく伝達されるようになるなどという知見をもとに行われている療法だそうです。
これは、例えばオレンジの精油などを手に取り、オレンジの香りの記憶をイメージしながら嗅ぐ、という行為を繰り返すこと。匂いの記憶を再構築する、というイメージ。
こういったことを地道にやっていくしか今は方法がないとされているのですが、彼女が嗅覚を取り戻し、また美味しくご飯を味わい、彩りのある世界だと感じるようになってほしい、と心の底から思ったVTRでした。
また、最近は某ウイルス感染者が嗅覚や味覚を失った、という後遺症に悩まされているという事実もよく耳にするようにもなってきました。一体何が起きているんだろう・・・。研究も進んでいるようなので、今後の情報発信にも注目です。