避難訓練のおはなし
船で働いている、と言うと
「怖くないの?!」
という質問をよく受けます。
答えは「特に怖くない」です。
船の中はセキュリティーは一応万全。
カメラは至る所に設置されてますし、セキュリティーが常に見回りにいるし、24時間稼働している部署もあるので誰かしらいる。
クルーなので、クルーはなんとなく顔見知り(大きい船だと知らない人もたくさんですが)。
お客様もある程度、収入のある方なので生活に困っている人はおらず、盗難事件なども特に聞いたことありません。
クルーも、犯罪歴や健康上に問題のある人は働けないし、かなり厳しいチェックがあります。
言ってしまえば、陸の生活より安全な気がします。
ごく稀に、レイプ被害に遭った、という事件が過去にあったということを聞き、それについてのビデオを研修か何かでみましたが・・・。
他に怖いことといえば、火事や沈没。
でも私たちは毎週1,2回、ドリル(避難訓練)をしています。
様々なシチュエーションを想定してのドリル、
一般的な保安事項の確認の研修、
そういったことも定期的にありますが、お客様が入れ替わるタイミングで、
24時間以内にドリルをしなければいけないということが海事法で決められており、こちらはお客様も必ず参加しなければなりません!
ちなみに このドリルのことをSafety Briefingと呼んでいました。
こちらの大きな流れとしては、
まずブリッジからアナウンスが流れる
↓
クルー、所定の位置に配置(お客様の誘導の為)
↓
お客様もそれぞれの避難場所(予め決められている)へ移動する
↓
万が一の緊急事態に備えて安全についての説明を受ける
↓
解散
(クルーズ楽しもうぜ!Yeah!的な感じで楽しく終わります♪)
実はこれがまた厄介!
まず、ドリル(避難訓練)と聞いただけでちょっと面倒くさいと思ってしまいますよね、人間の心理的にも。
大事なことだとはわかっていても、船に乗り込むまで長旅してきた人もいるし、様々な手続きを終えてほっと一息したい、そんなお疲れの人も多い。
そんな中、避難訓練というかたいお話が・・・。
本当、面倒くさいという気になってしまいます。
そして、緊急事態を想定しての訓練なので、できる限り、実際の状況に近い形で行います。
そうするとまず、
エレベーターが使えません!
これが、エレベーター使えないと苛々する人が多いです(笑)。
人間はとてもlazyになりました!
お年寄りや身体の不自由な方は別ですが、若いのにただの食べ過ぎで肥満となってしまった人が、文句を言いながら階段を降りて行きます(降りるだけだろ!と思いますが(笑))
上るときにイラッとしちゃうのはまぁわからなくないですけどね。
上にも書きましたが全員参加なので、以前に同じ船に乗ったことがある人でもその都度必ず!参加しなければなりません!
これは法律で決められています。
でもそれをわかってくれないお客様も多い・・・。
一人一人のお客様がきちんとお部屋を出ているか、それぞれの担当のハウスキーパーが一部屋一部屋確認します。
気まずいときに開けてしまったこともあるそうですが、規則なので仕方ない、どんな状況でもドリルに出てもらわないといけません(笑)。
でも、これをやらないと実際に万が一のことが起こったらパニック状態になることほぼ間違いなし。
どこに避難すればいいの?!
とりあえず外に出なきゃー!
子どもはどこー?!
想像しただけで恐ろしい。
実際の緊急時には、以下の流れが一般的。
ブリッジからアナウンス
↓
各関連部署が対応
↓
避難が必要と思われる場合、クルーアラート発令し、クルーが各配置につく
↓
お客様が各避難場所に移動(クルーは誘導)
↓
クルーも各避難場所へ
↓
キャプテンの指示でabandon= 船を降りてライフボートなどに移動
各避難場所は、Master Stationという名前で呼ばれ、
自分がまずどこに避難すれば良いのかを乗船した際に確認します。
船によってはとても広く、またそれだけでなく慣れない場所でもあるのでどこに何があるのか、どのようにそこへ行けばいいのか迷子になります。
なので、24時間以内に、しっかり自分の避難場所への導線を確認しておくということは自分や家族、大切な人の身を守る上で最低限必要なことでもあります。
出港してすぐの初日に何が起こるかわからないですしね!
なので、一般的なクルーズ船は出港前にドリルを行い、終わった瞬間にSailing Party(出港パーティー)を行います。
もうひとつ!
私たちクルーだけのドリル。
こちらはBoat Drillと呼んでました。
ちなみにBoatと入ってますが、クルーが全員毎回毎回ライフボートに入るドリルというわけではありません。
これは本当に嫌で嫌で仕方がない。
オフの時間とかぶるときもあるので、外に出たいのに出られないというもどかしさ!
もちろんtime backといって、その時間分を後でオフの時間としてもらえますが、外に出れる時間にも限りがあったり、予定が上手く合わないとその日一日を無駄にしてしまうことになります。
まぁ、旅行で船に乗っているわけではなく、従業員として乗っているので仕方ないといえば仕方ないのですが・・・。
これも法律で決められているので仕方ないです。
そして、2012年のコスタ・コンコルディアの事件後、船の安全管理に対してもとっても厳しくなった(というかそれまでが適当すぎた)と聞いているので、万が一のことを考えると大事なことだなと思います。
何が起こるかわからないので、ね!
あるときの設定では、私とルームメイトの部屋近くのランドリーから煙が出て、なんと!私が
casualty(死傷者)として設定されたこともありました。
これがその写真(ただの人形です)↓
ルームメイトはこの状況をブリッジに報告し、必要なドアを閉めるなどして安全確保、などなどやらされてました。
私(人形)はメディカルチームが来て運ばれてました。
そんなこともやってます、私たちクルー。
そして最後に、Coast Guard(沿岸警備隊)について。
国や地域によってはこのCoast Guardのチェックが入ります。
中でもアメリカのCoast Guardはとっても厳しい!
私たちクルーたちは、毎週欠かさず避難訓練をしていますが、アメリカの港に寄港する際はどこかで必ずこのCoast Guardのチェックがあります。
チェックって?具体的には?ということになりますが、キャプテンやオフィサークラスの保安に直接的に関わるクルーたちは専門的なものがあると思います。
私たち他部署の一般的なクルーたちはいつも通り避難訓練をしますが、集合場所などで彼らの質問攻めに合うという・・・。
「この船のライフボートの数は?」
「もし迷子の子がいたら君はどうする?」
「火事や煙も見つけたら、どうする?」
「ブリッジの電話番号は?」
などなど。
当てられないように祈るしかありません(笑)。
でも、訓練はとても大事です。
Coast Guardが来る!と聞いたら、色々な保安情報が書いた紙が改めて配布され、予習・復習をしっかりしてチェックに備えます。
以上、船の上の避難訓練についての小ネタでした。